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【第12回】発達障害チェックリストに自分や他人が当てはまる…と思ったときに意識したい3つのこと

  • 執筆者の写真: 楽々かあさん(大場美鈴)🇯🇵
    楽々かあさん(大場美鈴)🇯🇵
  • 5月4日
  • 読了時間: 10分

「発達障害チェックリスト」、ネットでよく目に入るけど……


10代のための凸凹学」連載12回目は、発達障害チェックリストに自分や他人が当てはまる…と思ったときに意識したい3つのことを、お伝えしたいと思います。


近年、「自分は/あの人は、もしかして発達障害かも?」と気になった人が検索すると、「発達障害チェックリスト」「発達障害のある人の特徴」などが、ネット上の多数のサイトで、すぐに目に入るようになりました。


その中には、信頼性の高そうなものもあれば、かなりいい加減な印象がするものまで乱立してるように思います(ちなみに、うちの長男は「おれ、こういうの、ことごとく全部当てはまるんだけど」と言ってます😅)


もちろん、ネットで気軽にできるチェックリストを入り口に、必要な人が医療機関の受診や各種サポート等につながったり、障害受容や自己理解に役立ったりする面もあると思いますが……。


その一方で、「いくつか当てはまるから、やっぱり自分も……」と必要以上に不安に思う人を増やしたり、「あの人、やっぱり……」と他人を安易に決めつけたり、「こんなの誰にでも当てはまるじゃん」「ただの個性なんだから、発達障害なんて甘え」といった意見にもつながったりも。


すると、本当に困っている人が厳しい目を向けられたり、本来は発達上何も問題ない人までレッテルを貼られたりしているのではないか、と私は心配になることもあります。


また、自分の「個性の特徴」や「発達上の特性」を把握して上手に付き合っていくことは大事なのですが、「ADHDの人の特徴はこう」「ASDの人の特徴はこう」と型にはめてしまう面もあります。


すると、安易に自分や他人をラベリングして、「その人そのもの」を見なかったり、本来は努力で改善できるはずのことまで、「個性だから」「障害だから」と諦めてしまったり、軽微な特徴まで意識することでかえってその部分が強化されたり……などの弊害も出てくる気がします。


発達障害の特徴にいくつ当てはまるかよりも、程度・頻度・環境に注目!


そんな中で、私は、その人が「もしかして……」と気になって、セルフチェックをしたいとき、「発達障害チェックリスト」にいくつ当てはまるかよりも、意識したほうがいいポイントが、3つあると思っています。


それは、「程度」「頻度」「環境」です。


では、この点に注目して、チェックリストによくある特徴を詳しく見てみましょう。


「真面目」な人の場合……


法律の勉強をしている真面目な女の子
イラスト生成:ChatGPT

例えば、日本人は特に、「真面目」という特徴には、非常に多くの人が当てはまるのだろうと思いますが、問題なのは「どの程度」真面目なのか、です。


一般的な範囲での、「"ただの" 真面目」であれば、真面目さや、勤勉・実直さは日本社会では好まれる傾向があるので、職場や学校ではさほど問題にならず、「頼りになる人」などと、好意的に受け入れられることが多いでしょう。


でも、それが「" 度を超えた" 真面目」だったら……?


例えば、「ルールは、ルールだから」と例外も認めず、一切妥協せず、極端に規律を厳密に守りすぎる人は、「融通が利かない」「柔軟性がない」などと思われて、対人面で難しくなってしまうことも。


ただし、仕事などの面では、環境次第では「度を超えた真面目」でも、さほど問題にならないこともあるし、より一層生きづらくなることもあります。


たとえば、経理や法律関係など、厳密さや厳格さを要求される仕事なら、真面目さが少々極端でも「しごでき」「信頼できる人」などとして、十分受け入れられる可能性は高いのです(職場の飲み会が苦手なら、断ればいいですし)。


ところが、接客やサービス業など、柔軟さや臨機応変さを求められる仕事だと、顧客とのトラブルが増えたり、タスクが増えるとテキパキ動けなかったりして、「仕事ができない人」扱いされてしまうかもしれません(私は、こういう人も組織の中には必要だと思いますが……)。


「協調性豊か」「空気が読める」「定型発達」の人も……


では、「発達障害チェックリスト」などではあまり挙がらない、「協調性豊か」とか、「空気が読める」なんて特徴がある人は、何も問題ないのでしょうか?


それが一般的な範囲なら、周りとうまくやれている人が多いとは思いますが、「”度を超えて” 協調性豊か」「"過剰に" 空気が読める」なんて人は、発達障害ではないかもしれないけど、なんらかの課題や困難さを抱えていて、かなり生きづらいんじゃないでしょうか。


あるいは、日本にいる外国人の方などは、生まれつきの発達上は全く問題がなくても、育った環境や文化背景の違いで、いつもどおり振る舞っているだけで「空気が読めない」「落ち着きがない」などといった印象を周囲に与える場合もあるでしょう。

(日本人でも、帰国子女などは文化的なギャップで苦労される場合もあるようです)


一見誰にでも当てはまりそうな個性の特徴でも、その「程度」によって、大変になったり、ならなかったりしますし、また、その人のいる「環境」によって、個性の受け止められ方も、問題視されたり、されなかったりと、変わってくるのです。


更に、別の角度からも見てみましょう。


「忘れ物が多い」って、どれくらい?


忘れ物をした男子高校生
イラスト生成:ChatGPT

例えば、ADHDのある人の特徴としてよく挙げられる「忘れ物が多い」などは、どうでしょうか?


最近では、「忘れ物が多い」「片付けられない」とかだと、すぐに「あの人、ADHDだよね」と決めつけらがちなように思いますが、まず、「忘れ物が多い」からといって、その理由は必ずしも、ADHDとは限りません。


たとえ、いつも忘れ物が多い印象の人でも、認知症やうつ病など、その他の疾患が疑われる可能性や、単に、多忙過ぎて細かなことまで手が回らないとか(学校の先生とか)、毎日夜遅くまでスマホを見る生活習慣による寝不足や情報過多不安やストレス、過労、ホルモンバランスや自律神経の乱れ、持病の薬の影響、持ち物自体が多すぎ……etc.etc.と、様々な理由が考えられます。


(ちなみに私自身も、子ども達が小さな頃はうっかり忘れが多くて、「私もADHDかも」と思っていましたが、毎日が慌ただしすぎて、全く余裕も時間もなかっただけで、ほどほどに子育てが落ち着いてきた今は忘れ物も減りました👍 バタバタしてると何か忘れますが、まあ「ただのうっかり」でしょう)


それから、「忘れ物が多い」と感じるのも、個人の主観が影響しています。


具体的にどのくらいの頻度で、何を忘れると「多い」と感じられるのでしょうか?


同じ忘れ物でも、その頻度や内容によって、生活への影響度が全然違ってきますよね。

例えば、以下は「私の主観」での「忘れ物の多さ」の基準になりますが……


<一日に30回、忘れ物をする>

私なら、ADHDよりも、もっと深刻な病気の可能性も疑って、もし家族であれば「一度精密検査をしてもらったほうがいい」と、大きな総合病院の受診を強く勧めるでしょう。おそらく、仕事どころか、日常生活も困難だと思うので、介護などの福祉的サポート等も早急に必要なのでは、と心配になる頻度です。


<一日に3回、忘れ物をする>

私の感覚では「多いな〜」という気がします。小学校時代の長男がいつもこんな感じでした。ただし、「忘れ物」と一口に言っても、ハンカチ程度をちょくちょく忘れるのと、家のカギやスマホなどをよく忘れるのとでは、生活への影響が全く違うと思います。

でも、のんびりした国民性の国などにいれば、この程度でも「フツー」なのかもしれませんね。


<週に3回、忘れ物をする>

私の感覚では「ただのうっかり」の範囲に思えます(私や、うちのパパはこんな感じです)。

でも、例えば学校では、大らかなタイプの先生ならあまり気にしないでしょうが、「忘れ物チェック表」などを細かくつける厳格なタイプの先生なら、週3でも「忘れ物が多いですよ」と、注意を受けるかもしれませんね。

人によって、気になる/ならない、の意見が分かれそうなラインだと思います。


<月に1回、忘れ物をする>

私から見れば、こんな人は、忘れ物が多いどころか、めちゃくちゃしっかりしてて、むしろ、月1程度の忘れ物くらいしてくれたほうが、人間らしくて安心できます。でも、極端な例ですが、もし、その人が飛行機の整備士なら、ネジ1本の締め忘れが重大事故につながることもあります。

環境次第では、ごく稀な、ほんの小さな「忘れ物」でも、一切許されない場合もあるでしょう。



……これを見て、納得できる人もいれば、自分の「多い」感覚とは違うと感じる人もいるでしょう。

(この記事での、"ただの" や "度を超えた" "極端な" などの表現も、個人の主観によるでしょう)


この感覚や常識のズレが大きいと、たとえば、小学校の先生に「お子さんは忘れ物が多くて落ち着きがないので、発達障害のADHDかもしれません」と言われて、「いえ、うちの子は普通です! 元気なだけで、ただの個性です!」と保護者が憤慨する……などの、よく聞くトラブルにも発展しかねません。


この場合、先生の感覚が厳しめなのかもしれませんし、保護者の感覚が大らか寄りなのかもしれませんよね(まあ、親への「伝え方」も、あると思いますが……)。


「気になる」を「決めつけ」にしないために……


一緒に帰る男女の高校生
イラスト生成:ChatGPT

このように「発達障害チェックリスト」の項目がいくつか当てはまったとしても、その程度・頻度や、環境によって、仕事や日常生活への支障が大きかったり、さほど影響がなかったりするのです。


特徴の背景にある理由も発達障害が原因とは限りませんし、個人の主観によるチェックには感覚のズレもあります。


ですから、自分の感覚で、発達障害の特徴が当てはまるからと決めつけて、「あの人忘れ物ばかりで、絶対ADHDだよね」「あいつ、空気が読めないからアスペでしょ」などと、安易に他人にラベリングしてしまう/されてしまう人が増えると……


……本当に必要な人が医療機関への受診をためらったり、自分が発達障害であることを前向きに受け入れられなくなったり、世間の発達障害のある人に対するイメージが悪くなったりして、様々な弊害を招いてしまうのではないか、と私は懸念しています。


冒頭でも触れたように、チェックリスト自体は無料でできる気軽な入り口として、信頼性の高い機関が提供するものなら利用してもいいとは思いますが……。

それだけで自己診断・他己診断で、発達障害のある/なしを決めつけずに、あらゆる可能性が背景にあるかもしれないこと、頭の片隅で覚えておいてほしいな、と私は思います。


そして、もし、発達障害の特徴が沢山当てはまっても、そんなに当てはまらなくても、日常生活や職場・学校生活などでなんらかの支障が出ていたり、自分の個性についてすごく悩んでいる人は、一度 "ちゃんとした" 専門のお医者さんへ、というのが、基本的だけれど大切なのです。


本当に "ちゃんとした"専門のお医者さんであれば、初診のその日に即診断などはせず、慎重にあらゆる可能性を考慮に入れるはずです。


特徴の「程度」「頻度」「環境」なども踏まえながら、丁寧に本人の話の聞き取りをしたり、【第11回】や【第4回】でも触れた「発達の凸凹差」などを各種検査等での客観的な数値で測ったり、養育者から生育歴などを丹念に聞き取ったり、数ヶ月以上の行動観察経過観察をしたり……


……と、時間をかけて多角的に検証しながら、正確な診断をしてくれると思います。


まあ、現実的には、ニーズに対して発達障害の専門医が少なく、専門医療機関の予約が取りづらい状況があるので、ネットの自己診断だけで「やっぱり……」と、納得してしまう人がいるのも理解はできますが……。


すぐに専門病院で診てもらえない場合でも、もし、今、自分の個性と環境のことで、すごく困っていることがある人(例:学校や職場での不適応や負担、人間関係やコミュニケーション面の難しさなど)は、受診や診断の有無に関わらず、まずは学校や職場の相談窓口、地域の発達支援センターなどの公的な機関等に相談してみるのもオススメです。


この記事を書いた人の著書

「発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換」大場美鈴・著(あさ出版/2020.6) →Amazonで見る


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