先日中学受験に関して、LITALICO発達ナビで、
…の2つのコラム記事を執筆しました。
記事監修を鳥取大学の井上雅彦先生がして下さり、このうち、4.8公開のほうの記事の文末の監修コメントで、発達障害のある子の受験に関して、とても参考になる情報を頂いたので、一部引用しますね
"中学受験や高校受験でよく相談を受ける内容として、発達障害があることを事前に伝えるかどうかというものがあります。
一つの基準は、入試に際してどの程度の配慮が必要かどうかというのが挙げられます。
仮にオープンにしたとして、入試に対してマイナスになることはないですが、教室での試験や面接に際して合理的配慮が必要でなければ、入学前にオープンにする必要性は低くなるかと思います。…”
私がうちの3兄妹の中学受験で、「入試での合理的配慮が必要でなければ、あえて事前に伝えなくてもいいんじゃないの。実際になにか困ったことがあれば入学後に相談すればいいし…」と、なんとなく思っていたことを専門家の先生が言葉にしてくださって、本当にありがたい限りです。
(井上先生のコメント全文は、ぜひ記事本文でご確認ください)
以下、うちの経験談も交えて、この点に関するお話をしたいと思います。
■中学受験に際して「発達障害」を事前に伝えるか?
中学受験でも、高校・大学受験でも言えることだと思いますが…。
受験の前に、志望校に「発達障害」があることを伝えたほうがいいのか、でも、それで合否に不利な影響が及ばないだろうか…などは、お子さんも保護者さんも、非常に悩まれることだと思います。
私も、ASDの診断と書字障害のLD傾向もあった長男の中学受験の時には、当時は参考になる情報もほとんどなく、「長男は字を書くのが苦手だけど、志望校にそれを伝えて、万が一受験に不利になったらどうしよう」と、我が子の人生を左右するかもしれない選択で、とても悩みました。
で、結論から言うと、うちは中学受験では「発達障害があること」は、事前に伝えなかったです。
でも、「字を書くのが苦手なこと」は、5年生のうちに、やんわり相談しました。
なぜかと言うと、小学5年生当時の長男は「字を書くのが苦手」とはいえ、受験が不可能なほど、文字が一切書けないというワケではなかったから。
彼は小4まではノートを全然取らなかったり、漢字テストはいつも白紙か、0点〜10点くらいだったりしたので、そのままだったら受験自体が難しかったので、もしその状態で受験をするなら、明確な合理的配慮が必要だったと思います。
でも、家で気長に続けた療育あそび・負担を減らす工夫や、5年生の支援級での個別学習などの効果もあって、この頃までには、交流級で黒板を見ながら写したり、テストも漢字間違いやひらがな使いが多めではあるけれど、解答自体はできる程度には書字の困難さが改善していたので「合理的配慮がなければ、受験自体が困難」という状態ではなかったのです。
なので、当時の私は、志望校に長男のことを予め理解してほしい気持ちもあったのですが、"伝えた場合のリスクの可能性"を考慮して、「本人に負担はかかってしまうけど、言わないほうが無難」という結論に落ち着きました。
ただし、井上先生も仰っているように、入試に際して発達障害があることを伝えて、それがマイナスになることは(本来)ないはずです。
それでももし、万が一にもあってはならないことですが、事前に発達障害を伝えたことで、「受験自体をさせてもらえなかった」とか、「明らかに合格点をクリアしているのに不合格にされた」とか、「合格したけど入学辞退するように言われた」(いわゆる「門前払い」)…なんて場合は、「障害者差別解消法」の不当な取り扱い等に該当する可能性が非常に高いので、法的に対応できると思います。
(もし、試験の点数が明らかに合格点に足りているのに不合格だったり、高校受験での内申点等が分からずに合否結果に納得がいかない場合は、受験校・自治体等に対して「自己情報の開示請求」ができることを、念のため覚えておいてください)
まあ、そこまで旧態依然とした学校は、仮に入学できても、学校生活でいい思いはしないでしょうから、とっとと見切りをつけて他を探すのが賢い選択だと思いますが…。
ただ、「合理的配慮」に関しては、この4月から私立校も法的義務になったとはいえ、入試で「どの程度から、どのような配慮を受けられるのか」は、学校ごとに対応も異なります。
例えば、LDの診断があり、書字が著しく困難で筆記試験自体が難しい子は、代筆やPCによる解答入力などの明確な「合理的配慮」を求めることが法律上できると思いますが、長男のように「苦手だけど、ある程度は書ける子」などにまで対応してもらえるかは、線引きが難しいラインだと思います。
診断があっても困難さの程度が比較的軽い子やグレーゾーンの子などに対しても、柔軟に対応できる学校もあれば、受験に先立って「診断書」や「今までの配慮実績」などの提出が求められて、線引される場合もあるでしょう。
じゃあ、「LDグレーゾーン」の長男の中学受験で、うちでは実際どうしたかというと…
■「発達障害」は伝えずに、字を書くのが苦手なことだけ志望校に相談
志望校のA中学では、学校見学会・説明会の最後に個別相談の時間を設けています。
そこで、長男が5年生のうちに、「発達障害」という言葉は明確に伝えずに、「勉強にはとても意欲的なのですが、字を書くことが苦手で、答えが分かっていても漢字をよく間違うので、受験に不利にならないか心配しています」と、やんわり相談しました(5年生のうちに相談したのは、万が一、よくない対応をされた場合でも、軌道修正や志望校変更が可能な時期だからです)。
この際、私は長男の小学校のテストやノートも持参して、「どの程度まで書けるのか、書けないのか」分かるように、具体的に見せました。
すると、対応したA中学の先生は、ある程度事情を察したようで、「パソコン入力での解答などには対応できませんが…」と、まず最初に、合理的配慮を断られはしたのですが……。
そのかわりA中学の先生は、字は書けるけど漢字間違いが多い長男に、入試の採点上での「正誤の判定ライン」を教えてくれました。
以下は、あくまでその時点での、A中学独自の採点基準ですが…
国語の「漢字そのもの」を問う問題は、漢字間違いは不正解。
それ以外の国語の問題や、他の教科でも、漢字が間違っていたら不正解または減点。
ただし、漢字解答が指定された問題以外は、ひらがな混じりでも答えが合っていれば正解。
…とのこと。
つまり、例えば社会の問題で、正しい答えが「戦争」だとして……
問題文に「漢字二文字で答えなさい」等の指定がなければ、「せん争」「せんそう」と書いても、◯にしてくれるのだそう。でも、「戦」の字の点が1コ多かったりすると、文字として間違っているので✕になります。
だから、「解答の漢字を迷ったら、ひらがなでOK」と分かり、長男も私も安心することができました。
※もちろん、この正誤の判定ラインの基準は、学校ごとに異なるので、うちの長男と似たような不安がある親子さんは、直接志望校にご確認ください。
ただし、A中学の先生は、「あまりにひらがなばかりだと、それで不合格にすることはないけれど、こちらも心配になってしまうので、できる限りは正しい漢字で書けるようにがんばってみてね」とのこと。
これで、不安が減ってやる気UPした長男は、本当にできる限り正しい漢字で書けるように、それから猛然と努力しました(特に、漢字指定がされやすい用語・語句を中心に)。
「A中学に行きたい」という強い目的意識ができると、長男の中で優先順位が下の方だった「意味のない漢字の暗記」にも意味が見い出せて、彼の脳内ハードディスクの容量を割けるようになったみたいに私には思えました。
と、こんな感じで、受験本番までに、ギリギリなんとか必要な漢字が書けるようになった長男ですが……。
■本番当日、急遽、別室受験の配慮を受けることに…
実は、「発達障害」を理由とした合理的配慮ではないけれど、長男は結果的に、入試本番当日に、急遽「別室受験」の配慮を受けることになりました。
と、言うのも、先行して行われた総合型選抜試験では、面接も入念に準備したおかげで落ち着いて受けられて、手応えも上々だったのですが……。
一般入試では、周りのお子さん達が試験開始と同時に猛然と鉛筆の音を鳴らして解答し始め、自宅学習生で試験の場数が少ない長男は、不慣れな空気感に過度の緊張から頭が真っ白になり、顔面蒼白で気分が悪くなって、1科目目の試験で途中退出してしまったのです。
保護者の待合室で待機中だった私も呼び出されて、慌てて保健室に向かいました。
そこで、長男が少し休んで落ち着いたら、試験を続けるか、帰宅するか聞かれて、彼は「試験を受ける」と答えたため、保健室の隣の部屋で試験監督の先生が一人ついてくれ、他のお子さん達と同じタイミングで残りの試験を続け、一応4科目全て受験することができました。
それで、最初に受けた算数は半分くらいしか解答できなかったけど、他の科目は頑張れたそうで、結果、総合型・一般入試共に合格していました。
A中学入学後に、長男は保健室の先生と、その時の思い出話をすることもあったそうです。
……と、まあ、うちの長男の中学受験と合理的配慮にまつわる顛末は、このような感じでした。
「配慮を受けての受験」で臨むかは、判断を悩まれるご家庭もあるかと思いますが、うちの経験がひとつのご参考程度になりましたら幸いです。
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